鍵山

                                  作者 橋本利一

 

「くそ! 外れない」

「お兄ちゃん……」

 小型爆弾を腰に巻いた少女の眼から床に涙が落ちる。

「もう無理だよ……」

「そんなことない! まだ時間はある」

 そして、必死に鍵を爆弾の鍵穴に差し込んで回す作業を続ける。

 しかし、いっこうに外れる気配は無い。

「諦めよう……あれだけの鍵の山からどうやって本物を見つけ出すの?」

 手錠を外そうとしている少年の横には、さまざまな種類の鍵がうず高く積まれている。

 そして、その横には砂時計がある。砂はもうほとんど落ちてしまったようだ。

「ミカ……すまん助けられそうも無い」

「お兄ちゃんのせいじゃない。悪いのは誘拐された私……ぼーっとしてたから」

砂時計には、あと十秒ほどの量しか砂が残ってない。

少年が、最後の鍵を取る。

「これがだめだったら――」

そういいながら鍵穴に鍵を差し込んで回す。

カチリ

「外れた……やっ――」

 そのとき、砂時計の砂が完全に落ちきった。

 ボン!

 少女の腰が吹っ飛ぶ。

そして、静かに倒れた。

 少年は訳も分からぬまま少女に近づく。

「ミカアアアア……外したのに……なっ……なっ…」

 そして、巻き添えにあった少年も倒れた。

 END

 

「カット! よしいいだろう。お疲れ」

 監督が、お兄ちゃん役の少年とミカ役の少女に近寄った。

「監督ありがとうございました」

二人で声をそろえて頭を下げる。

「やっぱり素人の子使ってよかったわ。一卵生双生児だっけ? 息もぴったりだったし……あ! 休憩はいっていいよ」

お兄ちゃん役の少年とミカ役の少女は、

「お疲れ様でした」

と言うと、元気よくスタジオを飛び出していった。

 

それから、一ヶ月後――

映画館では、鍵山と題された映画が全国に放映されたそうだ。

戻る

 

inserted by FC2 system