リース雑貨店〜聖杯〜

                                   作者 橋本利一

 主な登場人物の紹介

  リース・・・リース雑貨店店長。十三歳の少年。いつも葉で作った服を着ていて少々だらしないところがある。

  テン・・・リース雑貨店店員。数年前、森でけがをしていた時リースに拾われた。とてもしっかり者だ。

  ハリス・・・お客様。考古学者でもあるらしい。冒険談を話してくれる。
  

 第二話 聖杯 

  ****年 十二月二十五日(木)

オープン五千三百六十三日目

  今日の日記担当 テン
  
 今日は、クリスマス。
 

しかし、リースは店を休みにしない。(休みは、正月の三日だけだ。)
 

それなのに、リースは、朝から起きてこない。

 寒い日は起きない!というのが、人間の鉄則らしい。

 私(テン)は、ただのわがままだと思うけど・・・。

 外は、昨日から雪が降り続いている。

 「はぁ。外でおもいっきり走り回りたいなぁ・・・。」                 

 とか言っても、どうせリースに、「わがままいうな!」
 と言われるのだろう。(リースもわがままじゃない?)
 

そんなわけで、私はレジ台に立って窓から外を見上げている。

 お客様は来ない。

 カラン カラン。

 その時、お客様が来たことをつげるベルが鳴った。

 「いらしゃいませ。」

 お客様は、茶色いコートをぬいで私の横に置いた。

 「おい!しゃべるエゾオコジョッ!失礼だぞ!貴様、名前は?」

 私は、まず、自分から名乗れよ。とか思ったけど、あまり気にしないで名乗った。

 「リース雑貨店店員のテンです・・。失礼ですがお客様のお名前は?」

「ハリスだ。考古学者をやっている。ところで友人に聞いたんだが、この店では何でも売ってるって本当なのか?」

 この店に来た人はみんな同じ事を聞く。

 「ええ。何でも売っております。」

 「本当に何でもなのか・・・じゃあ・・聖杯とかはあるのか?」

 「聖肺ですか・・・そんな気持ち悪い物は・・知りませんけど・・・。」

「聖肺じゃなくて、聖杯だ!」

 私はどうやら、勘違いしてしまったようだ。                   

 ハリスさんが少し、いらいらしてきたようだ。「やばいな。」私はそう思った。リースを呼ぼうとしたけど、わがままリースにたよらずに自分でやることにした。

 「すいません。ちょっとしたジョークですよ。」

 私は、笑ってやり過ごす。

 「でっ・・・聖杯を買ってなにをするのですか?」

 「素人にはわからないことだ。」

 私は、少し「ムカッ」としたが、表情には出さないようにした。

 「じゃあ。すみませんが、教えてくれますか?いろいろ・・・冒険話とか・・・。」

 「かまいませんよ。」

 わたしは、ほっとしてハリスさんに椅子を勧め、お湯を沸かし、イチョウ(秋に採ったイチョウ)で作ったお茶を出した。

 「イチョウのお茶かぁ。珍しいなぁ。」

 「この店じゃ、ふつうですよ。」

 私も椅子に座った。

 「じゃあ。おねがいします。」

 ハリスさんは、話を始めた。

 「あれは、五年前だったかな・・・・。」


 ここは、ロンドンのとある神殿。

 俺(ハリス)は、聖なる杯を求めてこの神殿にやってきた。

 俺の右のポケットには、拳銃が入っている。

 友人が、「道中、危ないから持って行け。」と心配してくれたからだ。

俺は、トラックに乗せてある探検道具がはいったリュックを背おって神殿の中に入った。

 中は、少々薄暗くほこりっぽい。

 俺は、ランプに灯りをともした。

 壁に、考古学者の俺にでもわからない絵記号がはっきりと、浮かび上がってきた。

 あとで研究してみようと思い、写真を撮った。

 せまい通路を進んでいくと、大きなホールに出た。

 そこには、三人ほどの男女が俺の方を見ながらなにかしゃべっている。

 俺は遺跡荒らしだと思い、右のポケットに手をいれて拳銃を出し、三人に銃口を向けた。

 女の遺跡荒らしが俺に話しかけてきた。

 「あなたは、****研究所のハリスさんでしょ。わたしたちは同業者よ。遺跡荒らしじゃないわ。」

 俺は、信用できず銃口を向けたまま話した。

 「じゃあ、なぜ俺しか知らないはずのこの神殿にいるんだ。」
 

     「それは・・・。」

 女は、しゃべっていいのかまよっている。

 「ほら。やっぱり遺跡荒らしだ。」

 すると、もう一人の男の遺跡荒らしが俺のほうに寄ってきた。

 「いやいや。ハリスさん。わたしたちは正真正銘の考古学者だよ。ほら、これを見てくれ。」

三人の胸ポケットを見ると、俺と同じ位置に鹿の形をかたどった金色のバッチが、安全ピンで留まっていた。

 俺は拳銃はおろしたが、気をぬかずに話した。。

 「確かに考古学者のようだ。じゃあ、なぜこの神殿の場所がわかったのか?」

 「君の友人から、情報を買ったのさ。もう少しで、もう一人の考古学者が戻ってくる。聖杯を・・・・・。」

 ダーン  ダーン  ダーン

 気づいたときには、三人とも地面に倒れていた。俺に話しかけてきた二人は、脳が地面に散らばって血の海になっている。即死だなと俺は思

った。

 一人は、まだ息があるようだった。何か言いたいようだ。しかし、俺は門答無用でその男の心臓を撃ち抜いた。

 もう息はしていない。残酷かもしれないが、これでいいのだ。こいつらに盗られるよりましだ。俺は、聖杯に命をかけている。聖杯を手に入れ

るためには、殺人だっていとわない。

 だから、俺には後悔はなかった。今の俺の頭には、裏切った友人のことしか頭になかった。

 俺は、拳銃をポケットに戻すと、トラックに乗って友人の家に向かった。でも友人は引っ越していた。

 俺は、家に帰ると引越の準備を始めた。

 次の日の新聞に、考古学者三名殺害。犯人いまだわからず。聖杯発見の文字が出ていた。


 全て話し終えたハリスさんが、イチョウ茶を口にした。

 そして、どうも口が渇いていたらしく、カップの中が空になって元の場所に戻った。

 「このことは、だれにも言わないでくれよ。」

私は、お湯を沸かしながら答えた。

 「だいじょうぶです。この店では秘密は絶対に外には漏れません。」

 ハリスさんは、とてもホッとした顔をした。

 「でも、よく私を信用してくれましたね。」

 「おまえは、信用できると思った。長年の俺の勘だ。」
 

     私は急須にお湯を入れて、ハリスさんのカップにお茶を注いだ。

 「ありがとうございます。では話を聞かせてくれたお礼に、聖杯をお売りしましょう。」 「本当か?いくらでも出す・・・。そういえば外の看板に、

お客様の言い値で取引いたします。とか書いてたよな?」

 私は、頷いた。

 「じゃあ・・・・五万ラード(五百万円)でどうか?」

 私はあまりの大金に倒れそうになったが、平常心を保ち続けた。

 「いいですよ・・・。」

 私は、五万ラードとレジに入力した。

 ハリスさんは、ポケットから財布を取ると、クレジットカードを抜いて私に渡した。

 私は、カード入力機にそれを通すと、ハリスさんに返した。

 「少し待っていてください。」

 そう言うと、私は商品を取りに店の奥に行った。そして、商品を持って戻るとハリスさんに渡した。

 ハリスさんは、中を見て満足そうに笑った。
 

「じゃあ。しゃべるエゾオコジョ。達者でな。」

 ハリスさんが店を出ようとしたとき、私は、あることを思い出して呼び止めた。

 「しばらくは身を隠した方が、安全ですよ。」

 「わかってる。」

「ありがとうございました。」 

 そして、ハリスさんは雪の中に消えていった。


 それから少ししてから、リースが下に降りてきた。

 「ふぁぁぁ・・・。誰か来たの?」

 私は、カップを洗いながら言った。

 「来たよ。ハリスって言うお客様。」

 「一人で応対出来たんだ・・・。すごいじゃん。」

 「まあね。」

 リースはもう一度あくびをすると、カップを出してきてお茶を入れた。

 「昼食作ってよ!腹減った・・・。」

 「もう午後四時だよ。」

 「わかってるよ。早くなんか作ってよ。」

 「わかったよ。目玉焼きでも作ろうかな・・・・。」

 そして私は、フライパンを火にかけた。


                   



   エンディング


 ここは、考古学者学会。

 俺(ハリス)は、聖杯を世の中に発表するために、壇上に上がっている。

 目の前にいる考古学者たちの目が、いっせいに集まってくる。

 俺は、聖杯を机の上に置いて深呼吸をした。 

 そして、マイクに向かってしゃべった。

 「これは三週間前、ある場所で見つけた物です。二つ目の聖杯でないかと思われます。これは、歴史的大発見です。」

 考古学者たちや、警備の人からざわめきがおこる。

 おれは、しめしめと思い、話を続けた。

 「この聖杯は、今から二千年ほど前の・・・・。」

 そのとき、入口から一人の警察官が入ってきた。

 その警官が、俺に逮捕状を見せて言った。

 「考古学者三人殺害と、国家重要物を盗んだ疑いで逮捕する。」

 おれは、あっけにとられて逃げるのを忘れた。

 そんな俺の手首に、手錠がかけられた。

 取り調べの時、なぜばれたのか聞くと、

 四人目(聖杯を運んできた人)が見ていたらしい。

 国家重要物を盗んだ疑いは、晴らそうとしたけど、晴れなかった。

 俺が、雑貨店で買った日に、博物館から無くなっていたらしい。

 俺には、アリバイが無かったことを含めて、俺が犯人らしい。

 裁判では、無期懲役になった。

 今は、***刑務所で刑に服している。

 俺は、今でも思う。

 あのエゾオコジョの言うことを聞いて、聖杯を発表せずに隠してればよかったなぁと・・・・。 

 今度、エゾオコジョに手紙でも出そうかな。

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