リース雑貨店〜不老不死の薬〜
作者 橋本利一
森の入り口とは、自然の入り口の事。
自然の入り口とは、神の入口の事。
そして、神の入口に存在する店。
それがリース雑貨店。
オープニング
ここは、人々が森の入口と呼ぶ場所。
森の入口は、風で木が揺れる音以外なにも聞こえない。
そんな場所に建つ木造の一軒家。
木造の家のそばには川が流れていて、その岸に、「リース雑貨店 何でも売買いたします。」ときたない毛筆の字で書かれた看板が建っている。
店の中に入ると、かすかに杉の木の香りが漂ってくる。
店の中は、なぜか商品が無い。そのかわり、レジのわきにたくさんのカタログが積まれている。
そして、店の朝は早い。
午前四時くらいになると台所で、朝食を作る音が聞こえてくる。 朝食を作っているのは、この店の店員であるエゾオコジョのテンである。（エゾオコ
ジョとは、北海道に生息しているオコジョである。冬は毛が白く、夏は茶色っぽい。体型は胴長で、巣穴に潜り込んだ動物を狩るため、このような体
型をしている。）
テンという動物と、エゾオコジョをまちがえられたのがきっかけで、テンと名づけられた。
テンが、短い手を起用に使いながら、フライパンの中にあるベーコンを焼いているとき、この店の店長であるリースが、二階の寝室から必ず降りてくる。
リースは十三歳の少年で、いつも葉で作った服とズボンをはいている。顔にはまだ、幼さが残っている。
リースが降りてくると、店の朝食が始まる。一人と一匹は、今日客が来るかとか、昼食は何にしょうかとか、話しながら箸をすすめていく。
朝食を食べ終わると、午前六時の開店に合わせて準備を始める。
しかし、開店してもお客が来ることはあまりないので、店の掃除をしたり、昼寝をしたりして一日を過ごす。
お客様が来たら、お茶を出したりお話を聞いたりしてから、商品をお買いあげいただく。
閉店時間が近くなると、後片づけをして、午後八時に閉店する。
午後九時まで自由時間で、一日が終わる。 リースは、自由時間にしている事があった。それは毎日、日記をつけること、日記はオープンした時から書き続けていて、もう二十冊は超えていた。
この日記の中で特に気に入った日を、私（橋本）が物語にして、読者の皆様にお届けしているのです。
今回のお話は、オープン四千百十二日目に書かれた日記。
第一話 不老不死の薬
＊＊＊＊年 ＊月 二十三日（火）
オープン四千百十二日目
今日は、久しぶりにお客が来た。
お昼くらいまではひまだったのだが、午後になると、一人の軍人らしき男が僕の店に入って来た。
「いらっしゃいませ。」
テンが自分の寝所（穴）から出てきた。
軍人は、言葉を話すエゾオコジョに少々ビックリしながら言った。
「外の看板を見て来たのだが、この店ではなんでも売ってるって本当かね？」
「はい、何でもお売りしております。あと、買い取りも行っております。」
これは、僕の店の自慢である。
「だが・・・商品が、どこにもないじゃないか。」
軍人は商品を探して、店内を見回している。
「この店では注文を受けてから、お作りする方針を取っております。何をお求めです
か？」
「不老不死の薬とかあるかね？」
「不老不死の薬ですか・・・ちょっとお待ちを・・・。」
テンはそう断ると、店の二階に上がってきて、昼寝をしている僕をたたき起こした。
「リース！お客様が来てるよ。」
テンの声を聞いた僕は、布団からもぞもぞと出た。
「ふぁぁ・・・お客か・・・久しぶりに来たね・・・・。」
「リース！なに、のんびりしているの？お客様待ってるよ！」
僕は寝起きがとても悪い。でも、朝は早く起きる。なぜなら、僕の朝食まで食べるやつがいるから・・・。
あまりにも僕が起きないので、テンが僕の手に噛みつき始めた。
「いったあーい・・・。わかったよ・・・起きるよ・・・。」
僕はため息をつきながら起きると、髪を軽く整えて下の階に降りた。
下に降りると、軍服を着た軍人が、パイプを吸っていた。
「お客様。遅くなってすいません・・・。リー・・・店長を連れてきましたので、詳しいお話をお聞きください。」
そう言って、テンはメモを残して店の奥に引っ込んでしまった。
「お客様は、不老不死の薬をお探しで？」
テンが残していったメモを見ながら言った。
「ああ。そうだ。」
「よかったら、なぜ不老不死の薬が欲しいのか、その理由を聞きたいのですが・・・。」 軍人は、少し考えているようだったが、やがて決心したのか話し始めた。
「この事は極秘情報なので、誰にも言わないでくれよ。」
「私の店では、個人情報は一切外に流れません。」
軍人は、ほっとした顔をしている。
「秦の始皇帝って知ってるか？」
「あの、万里の長城を作った王様ですよね？」
「ああ・・・それで先日・・・。」
秦の王城。
世界に名をとどろかせた始皇帝も、今は病の床にふせている。
始皇帝の前には、始皇帝の家臣が三十人ほどひざまずいている。
「今日、君たちに来てもらったのは、手に入れたいものがあるからだ。」
「なんでしょうか？。」
側近が聞いた。
「不老不死の薬だ・・・。」（不老不死の薬は、簡単に調合出来る物ではない。材料もこの世界でとれるサメの心臓やスズメ蜂の針など。黄泉の国でとれる黄泉草や天使のはねなどを鍋に入れて、一年間煮た後呪文を唱えて、さらに五年間寝かしてやっと出来るのだ。）
「・・・・・・。」
家臣たちは皆絶句している。
「見つけた者は褒美をやろう、そうだな・・・土地と五千万ラード（五億円）をやろう。命令に従わぬやつは・・・首に縄をくくりつけた後国中を引きずり回し、頭から脳みそをかきだしくれるわ！」」
「・・・・わっ・・わかりました。すぐお持ちします・・・。」
側近が青ざめた顔で言った。
「頼むぞ・・・。」
始皇帝はぐったりしてしまった。
「さあ・・・探せ・・薬を・・・。」
とまどってる私たちを見て、側近は叫んだ。
「早く行け・・脳みそかきだされたいのか？」
私たちは、この言葉を合図に城門から飛び出した。
「・・・と、こういうことだ。」
「いかにも王が考えそうなことですね。」
リースは、少し考えて言った。
「わかりました。薬を売りましょう。」
軍人は目を輝かせた。
「ありがたい。いくらかね？」
「私の店では、お客様の言い値で取り引きしております。」
これは、店の自慢その二である。
「本当かね？では・・・二千ラード（二十万円）でどうかね？」
「かまいません。・・・二千ラードです。」
軍人がお金をし払う。
「はい・・・。確かに・・・では、領収書・・・。」
僕は、葉で作った領収書を渡した。
「すごい・・手作りなのか？」
「まあ・・・そうですね。」
僕は、テンを呼んだ。
「テン！薬を持ってこい。」
すると、テンが液体の入った緑の小瓶を持って走ってきた。
「リース。持ってきたよ。・・・あっお客様・・・はいどうぞ・・・。」
軍人は、テンの小さい手から小瓶を受け取った。
「ああ。ありがたい。始皇帝に、かわり礼を言う。」
「いやいや。これが、仕事ですから。」
軍人は、ポケットに緑の小瓶をしまった。
「では、そろそろ帰る。」
軍人は、店の外に出ていった。
「ありがとうございました。」
僕とテンが、ニッコと笑った。
「テン！昼寝の続きだ。」
「賛成！」
そう言うと、テンは自分の寝床へ、ぼくは二階へと、走っていった。
今日の、夕刊の記事に、（小鳥が届けてくれる）「始皇帝、病気で死去。」と書かれていたのには、本当にビックリした。
あの軍人はどうなったのかなと思ったけど、まぶたが重くなってきたので、あまり考えないことにした。
ああ、明日もお客さん来るかな？寝むれなくなるから来ないで、という気持ちもあるるけど・・・。
でも、今日は楽しかった。明日もまた楽しいといいな。
今日の日記担当 リース
エンディング
ここは、それから二日後の万里の長城。
もう少し先に行くと、始皇帝が住む王城が見えてくる。
万里の長城の階段では、二人の軍人が言い争っている。
「おい。この道を通らせろ！始皇帝様に用がある。」
「始皇帝は病気で死んだんだ。今、王城では政権争いの真っ最中だ。死にに行きたいのか。」
俺は、ビックリして目を丸くした。
「死んだのか・・・あの始皇帝様が・・・。」
俺は、何がなんだかわからなくなり、頭が真っ白になった。
「ああ。そうだ。」
そのとき、私はわけの分からないまま刀を抜いた。
「うっ・・・うそだ・・・うそだ。」
「うそじゃないって、さあ、刀を鞘に戻せ。」
相手の軍人（友人）が、俺をなだめるように言った。
「お・・・遅かった・・・」
「何がだ？」
「我が友人よ俺は使命を果たす。そこをどけ、さもなければ斬る。」
俺は、友人の心臓に刀の切っ先を向けた。
「や・・・やめろ・・・・。」
友人は、そう叫ぶと、自分の身を守ろうと刀を抜こうとした。
しかし、私の刀の方が早かった。
ぐさっ・・・・
「うっ・・・おっおまえはバカか？あのぼけた始皇帝の言いなり・・・になら・・なくてすむのだぞ・・友よ。おまえが始皇帝を・・・・信じるのならば・・・仕方ない・・わ・・私は、潔く・・・・し・・・・・死のう・・・さっ・・さらば・・・・と・・・友よ・・・・。」」
友人の心臓から血がドクドク流れ出てきて、地面に血の海を作り始めた。私は、倒れた友人の目を閉じると、静かに手を合わせた。そして、遺体を
持ち上げると、ポケットから緑の小瓶を出して、ふたをはずして遺体の口の中に液体を注いだ。
「すまんな。黄泉の国では、永遠に生きて俺が逝くのを待っててくれ。」
そう言うと、俺は遺体を緑の空の小瓶と一緒に谷底に落とした。
谷に、遺体の落ちる音が聞こえる。俺は、もう一度手を合わせた。
そして、始皇帝に使命を果たせなかった事を報告するために、王城へむかった。
この軍人は、この後王城で革命軍に斬り殺された。
中国の万里の長城の谷に、腐らずに眠る軍人の遺体と空の小瓶。
誰も来ない谷底で、何年も、何年も友を待っている
しかし、それは今までも来なかったし、これからも来ない。
彼の遺体が腐り黄泉の国へ逝くまでは・・・・。